コーポレート・ファイナンスにて覚えること

単語英語日本語意味算出式
ROEReturn on Equity株主資本利益率株式資本に対してどの程度の利益があるか当期純利益/自己資本
EPSEarnings Per Share一株あたり利益一株当たりどの程度の利益を当期にあげているか当期純利益/普通株式の期中平均発行済株式数
PERPrice Earning Ratio株価収益率EPSに対して株価が何倍か株価/EPS
PBRPrice Book-value Ratio株価純資産倍率一株あたりの純資産額に対して株価が何倍か株価/一株あたり純資産額
ROAReturn On Assets総資産利益率総資産に対する当期純利益の割合当期純利益/総資産
BPSBook-value Per Share一株あたり純資産一株あたりの純資産額自己資本/期末発行済株式数
クリーンサープラス関係
期末自己資本 = 期首自己資本 + 当期純利益 - 配当
サステイナブル成長率
サステイナブル成長率 = (1-配当性向)×ROE
サステイナブル成長率時の残余利益モデル
P = B0 + 
(ROE - k)×B0
k-g
P:株価、B0:期首株主資本簿価、k:要求収益率、g:サステイナブル成長率

第5問

Y氏は競争優位性を有する企業に投資する運用哲学で、日本株を対象にポートフォリオ運用を行っている。 Y氏は過去数年間の成長率の高い企業をスクリーニングする中で、スナック菓子専業メーカーのA社に注目した。 A社は、近年、国内市場ではコスト削減努力により、既存主力商品の価格競争力を強めるとともに、魅力の高い新商品 を投入し、海外市場では順調な市場開拓の貢献もあり、業績が拡大している。 海外では、近隣アジアのタイ、香港、台湾、韓国、中国が引き続き売り上げの拡大を続けているが、 近年、米国での成長が顕著である。 米国においては、緑黄色野菜を使って食物繊維の豊富なオーガニックスナックが、健康志向の顧客を捉えていることが 主因である。 現在、不足気味の供給力の増強に向けて現地工場を増設中で、2016年度から2017年度にかけて順次稼働する予定である。 今後、欧州地域においても米国と同様の商品を販売する予定である。
これまでの業績の拡大は、現経営トップが2010年度の就任以降に加速したものであり、今度、中長期的に売上高営業利益率15%、 国内市場シェア67%、海外売上比率30%を目指すことを掲げている。
資料1~資料3を参考に、以下の問いに答えなさい。計算問題の答えは四捨五入して資料の単位に合わせること。 なお、A社の国内売上はすべてスナック菓子である。 また財務諸表において貸借対照表数値を利用するものは、すべて年度末の数値を使用している。

第5問 問1

Y氏がA社に注目した理由について、考えてみよう。

(1)A社は継続して安定成長する企業として、売上および利益の成長以外に、業界内でのポジションに関係した特徴に注目している。 Y氏はどのような特徴に注目したと考えられるか述べなさい。


業界内のポジションについては、与えられている情報から業界全体の情報が読み取れるのは、資料2と資料3である。
このうち、資料2の国内スナック菓子市場の推移から市場シェアが計算できると考える。2014年の国内市場の売上高は1841億円なので、 市場シェアは1841/3416=53.9%なので、かなりの市場シェアを握っていることがわかる。

■答え :国内市場シェアが53.9%と過半数を握っており、中長期的には67%と圧倒的なシェア獲得を目指していることから、 価格競争力の優位性等からA社が継続的な成長を遂げられると考えY氏が注目したと考えられる。

(2)(1)で指摘したような特徴のある企業は、一般的に良好な財務的特徴を示す傾向がある。A社のどの財務諸表に最も表れているのか、理由を 付けて述べなさい。

■答え
財務諸表:営業利益率
理由:圧倒的なシェアを有している企業は規模の経済が働き、他企業に対する競争力を持つ、また、価格支配力も有していることが多いため 高い営業利益率を確保することができる。

(3)Y氏はROEの変化にも注目した。2010年度と2014年度のROEを比較すると、巨額の特別損失を計上した2011年度を除き、ROEは年々改善している。 2010年度と2014年度のROEの3要素のうち、ROEの上昇に貢献した要素について具体的な数字を示して説明しなさい。また、ROE上昇の主たる 要因を2つ指摘しなさい。

ROEの上昇要因の分析を行う問題であり、問題にはデュポンシステムでの分析結果の表があるため、これを参照すると、 資産回転率、レバレッジはほとんど変化がないが、売上高純利益率が高くなっていることがわかる。 また、海外の営業利益率が国内の3.0%と比較し、12.1%と突出して高く、海外での売上高が伸びていることも、要因の一つと 考えられるため、この2つを記載すればよい。

■答え
要因1:国内でのシェア拡大とコスト削減による売上高営業利益率の向上。
要因2:営業利益率が高い海外での販売拡大。

第5問 問2

次にA社のバリュエーションを実施してみよう。


(1)会社予想を基に2015年度の財務諸表を予想し、(ア)~(エ)の財務指標と株価指標を計算しなさい。なお、予測値の計算は資料1を前提とし、 便宜上、ROEの分母には期末純資産、PBRの分母には少数株主持分を含めた純資産を用いること。

(ア)期末現預金残高
(イ)ROE
(ウ)PER
(エ)PBR

■答え
(ア)期末現預金残高=期首残高+当期純利益+減価償却費-設備投資-配当金支払い
=308+140+55-100-29.4=373.6≒374億円

(イ)ROE=当期純利益/純資産
期末純資産=期首残高+当期純利益-配当金支払い=1045+140-29.4=1155.6億円
ROE=140/1155.6=0.121=12.1%

(ウ)PER=株価/1株あたり利益
1株あたり利益=140億円/1.335億株=104.868円
PER=3000/104.868=28.607≒28.6倍

(エ)PBR=株価/BPS(1株あたり純資産)
BPS=1155.6億円/1.335億株=865.617円
3000/865.617=3.465≒3.5倍

(2)2015年度の会社予想を基にバリュエーションについて、資料3の国内の同業他社との比較では 割高であるが、A社の成長性から投資魅力が高いとY氏は判断している。会社予想のROEが今後も継続する前提で、サステイナブル成長率 の考え方を用いて2019年度のEPSを計算しなさい。なお、配当性向は25%と想定する。

EPSは1株あたり純利益なので2019年度の純利益を求める。
サステイナブル成長率=ROE(1-配当性向)なので、問1より、2015年度のROEは12.1%、配当性向は25%よって、
サステイナブル成長率=12.1%×0.75=9.075%
2015年度の当期純利益は140億円であり、2019年度までは4年あるので、
2019年度の当期純利益=140×(1.09075)^4=198.1658
よってEPS=198.1658億円/1.335億株=148.438=148.4円
■答え:EPS=148.4円



(3)資料3における2014年度の株価指標等を比較すると、A社は国内の同業他社比で割高な指標がある一方、海外の同業他社比では割安な 指標もあり、明確な結論は導けない。A社のような企業では、配当割引モデル(DDM)やディスカウント・キャッシュフロー(DCF)モデルといった バリュエーション手法を、併せて検討すべきとY氏は考えているが、その理由を述べなさい。

■答え:DDMやDCFは企業の未来の収益力を現在価値に割り戻す手法であるため、マルチプル法の用な特定の時点での他社比較ではなく、 将来の成長性を加味した企業評価が可能なため、A社のような成長企業の評価に適していると考えたため。

第5問 問3

A社の配当性向は2015年度の会社予想で25%と、東証企業平均の30%台を下回る状況にある。一方、A社は海外展開のために今後数年は設備投資が 膨らみ、フリー・キャッシュフローがほぼゼロとなる見通しである。また、負債調達は考慮せず、 ROEは現状水準以上を維持し、株主が要求する資本コスト7%とする。


(1)A社が当面の配当性向を東証上場企業平均の30%台に高めることについて、株主価値の観点から賛成できるか否か、理由をつけて述べなさい。



■答え: 反対。A社は成長企業であり2014年度実績で11.6%と株主資本コスト7%を上回っている。このため、剰余金を配当とするより、 内部留保し事業に投資することで株価、株主価値の向上が期待できる。

(2)今後、成長投資を含めた設備投資額が減価償却費の範囲内に収まり、フリー・キャッシュフローが創出されるようになれば、 現状の配当政策を見直すべきとY氏は考えている。株主価値を向上させる観点から、どのように財務政策を見直したらよいかを 述べなさい。なお、手元流動性の水準はすでに満たされているものとする。ここでは、株主価値を「企業が生み出すキャッシュフロー の現在価値のうち株主に属する価値と、配当の現在価値との合計」とする。

■答え:FCFの創出により現預金が蓄積すると資本効率が悪化してROEの悪化要因となるため、余剰キャッシュは 増配か自己株式取得により株主に還元し手元流動性を高めない財務政策に切り替えることが望まれる。
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