第6問 問1

適切な数のデフォルト企業と非デフォルト企業のデータを集めて、図表1のようなデータ散布図を描き、線形回帰分析を行った上で、 その結果から次のようなデフォルト確率推定モデルを構築した。

PDi = a + bXi      (1)式

ここで、添字iはi番目の企業を、PDiはi番目の企業の1年後の推定デフォルト確率を、Xiはi番目 の企業の負債が自己資本の何倍あるかを示す負債比率(=負債/自己資本)を、aとbは推定された線形回帰式のパラメータを示している。

図表1 データ散布図
(注)デフォルト企業のデフォルト確率を1、非デフォルト企業のデフォルト確率を0として表示している。

(1)上記の(1)式で示されるデフォルト確率推定モデルを構築するためには、どのようなデータを収集するのか、また、線形回帰分析による方法とは どのようなものか、それぞれ説明しなさい。

回帰分析
あるデータ、例えば身長と体重のような変量がある場合に、片方のデータからもう片方のデータを予測する分析方法。
予測したい変数のことを目的変数(または被説明変数)といい,目的変数を説明する変数のことを説明変数(または独立変数)と呼ぶ。
線形回帰分析
あるデータから、予測したい変数(目的変数)と、その変数を予測するもととなる変数(説明変数)の組み合わせを、目的変数を Y軸に、説明変数をX軸にプロットしたグラフを作成し、最もフィットのよい(点の集合に近い)線を引く。
この際に、この線はy=α+βxと表せる。このαとβを解く方法として最小二乗法が使われる。
■答え:
収集するデータ:デフォルト企業と非デフォルト企業の負債比率と1年後にデフォルトしたかどうか。
分析方法:収集したデータからデフォルトしたかどうかを目的変数としてY軸、負債比率を説明変数としてX軸に データをプロットして最もフィットする直線を求める。
収集したデータの中のある企業iが1年後にデフォルトしていた場合、Yi=1,デフォルトしていなかった 場合、Yi=1として回帰分析を行い、Y=a+bXの回帰パラメータaとbを求める。
パラメータを求める方法としては、散布図の各点と直線上の値との誤差の2乗和を最小にするような推定方法(最小二乗法)を 使用することができる。

(2)実際にデータを集め回帰分析を行った結果、パラメータがa=-0.108、b=0.787と推定された。企業の信用リスク分析に当たり、回帰直線の 傾きb=0.787はどのような意味を持つのか説明しなさい。また、ある企業の負債比率が0.40(40%)のとき、このモデルによる推定デフォルト確率 はいくらですか。

■答え:
bは直線の傾きを表すので、負債比率が増えた際にどの程度デフォルト確率が増えるかを表す値である。よって、b=0.787は負債比率が 1増えたときに、デフォルト確率が0.787増えることを表している。

負債比率が0.4の場合は、PDi= -0.108 + 0.787*.04 = 0.2068 となる。

(3)上記の(1)式で示されるような「線形(直線)」のデフォルト確率推定モデルは、いくつかの問題を抱えている。重要と考えられる問題点を 2つ示し、それぞれについて説明しなさい。

■答え:
問題点1:確率なので値は0~1の間に収まるべきであるが、負債比率の値によってはマイナスの値や1を超える値となってしまうことがある。

問題点2:このモデルでは負債比率が増えた際のデフォルト確率の増加率は一定であるが、実際は無借金の企業の負債率が30%増えるのと、 負債比率が100%の企業の負債比率が30%増えるのとでは、デフォルト確率の増加は後者の方が大きい。このように実際には負債比率に対する デフォルト確率は線形ではない部分がある。

第6問 問2

いまA銀行は、企業C社が発行した既存期間1年、額面100円の割引債を保有している。この社債の1年のリスク中立デフォルト確率は3%、 デフォルト時損失率(LGD:Loss Given Default rate)は50%と推定されている。A銀行はこのC社の社債を保有するリスクをヘッジするために、 B投資銀行と1年満期のCDS(クレジットデフォルトスワップ)契約を結んだ。このCDS契約の現時点の価値を計算しなさい。 なお、リスクフリー・レートは1%とする。

■答え:CDSは該当債券がデフォルトした際に、その損失を補填してくれる契約である。この社債がデフォルトした際は、債券の50%が損失となるため、 デフォルト確率(3%)を加味すると、1年後のCDSの価値は100円×0.5×.0.03=1.5円となる。
これをリスクフリーレートで現在価値にすると、1.5/(1.01)=1.4851円となる。
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